監査公表第 4号(平成16年5月21日、県公報第2245号登載)

「住民監査請求に基づく監査(平成16年度)」


 請求内容:「福岡県警察本部生活安全部銃器対策課における捜査報償費等の支出について」

監査結果の概要

 1 請求人及び請求書の提出日
(1) 請求人 児嶋 研二ほか5名
(2) 提出日 平成16年3月12日

 2 請求の内容
 平成16年3月6日付け西日本新聞の報道によれば、福岡県警生活安全部銃器対策課庶務係長であったA氏は、1995年度から99年度にわたって、捜査費に関しては架空の捜査協力者への謝礼を装うなどし、旅費に関しては架空の出張期間を設けて「カラ出張」などの会計処理により、生活安全部銃器対策課職員らが5年間に総額約6,600万円を「裏金」として不正に支出してプールし、そのほとんどが本来の捜査費、旅費として使用されなかった事実を明らかにしている。これは、不当な公金の支出に当たるので、監査委員は約6,600万円のうちの県費に関する不当な支出額を確定して、福岡県知事に対して、公金支出の決裁権者、公金支出手続を行った担当職員、裏金を使用した職員らに支出相当額の損害賠償を求めるなど、損害を補填するための措置を講じるよう勧告することを求める。
 なお、本件は、不当な公金の支出から1年以上を経過しているが、福岡県警に関しては平成14年7月1日以降に作成された文書しか福岡県情報公開条例の対象とはなっておらず、住民が本件の支出に関して初めて知ることができたのは本年2月29日のテレビ報道、3月6日の新聞報道によってであり、それまでは全く知ることができなかったものである。
 よって、地方自治法第242条第2項の「正当な理由があるとき」に該当する。
 地方自治法第242条第1項の規定により別紙事実証明書を添え必要な措置を請求する。

 3 判断
(注)以下、「文書名」は、県警本部保有文書、『文書名』は、銃器対策課元庶務係長提出文書である。

(1) 捜査報償費
 捜査報償費は、次の6つの段階を経て執行される。
 第1段階では、「負担行為決議書」に基づいた金額が、会計課資金前渡職員(会計課長)の口座へ入金されていることが確認され、適正に処理されていた。

 第2段階では、「捜査費交付書」、銃器対策課長の会計課長あて「領収書」が確認され、交付額が銃器対策課へ渡されたことを示している。また、庶務係長が会計課から現金を受領していた。しかし、これら公文書のほかに『県費捜査費事項別内訳表』、元庶務係長作成の『捜査費等(現金)受領簿』及び元会計課次席の銃器対策課長あて『受領書』が存在していた。
 会計課で作成され、銃器対策課に交付された『県費捜査費事項別内訳表』の基本経費の欄に35,000円の記載があること、会計課元次席の銃器対策課長あて『受領書』に35,000円の記載があること、『捜査費等(現金)受領簿』の記載で、県費に係る捜査報償費の受領を示す欄に銃器対策課へ支払われた捜査報償費より、毎月、一律に35,000円減額された金額の記載があり、銃器対策課の課長及び次席の印影があることが確認された。
 この点について、当時の複数の銃器対策課の課長及び次席に事情を聴いたが、銃器対策課長からは「庶務係長に任せていた」、「記憶にない」と証言がなされたが、次席の中には減額されて交付されたことを認める証言もあった。また、会計課元次席からは「留保金」といった意味で交付額から差し引いていた事実を認める証言があり、銃器対策課長あて『受領書』の印影についても自分のものであろうといった証言がなされた。
 これらの証言や文書に残された事実の相互の関連性を勘案すると、交付された捜査報償費の中から毎月35,000円が銃器対策課に渡ることなく、会計課次席に渡っていたことを認定せざるを得ない。また、『捜査費等(現金)受領簿』は、平成7年度から存在するものの、平成7年度の『現金出納簿』が存在しないため、平成7年度については確認できないが、平成8年度以降は、『捜査費等(現金)受領簿』の記載内容は前述のとおり、35,000円の減額された金額の記載があり、また、平成8年度分の会計課次席の銃器対策課長あて『受領書』が存在していることから、少なくとも平成8年度以降は、35,000円があらかじめ基本経費として引き去られていたものと認定できる。

 第3段階では、会計課から交付された金額が「現金出納簿」に記載されるのであるが、庶務係長が「現金出納簿」に受領金額を記載し、次席に現金を渡していた。
 ただし、「現金出納簿」の記載は、平成11年度以降は次席が行うこととなった。
 しかし、第 2段階での「基本経費」の引き去りが認められるため、35,000円の乖離があると考えられ、「現金出納簿」の受領金額の記載は、虚偽のものと認定される。現金管理の内容について、銃器対策課元次席から、家計簿に準じたような内容の帳簿(以下「当該帳簿」という。)に記載していたとの証言があった。これは、「現金出納簿」が虚偽であるため、別途帳簿を作成して管理せざるを得なかったものと判断される。

 第4段階では、「捜査費支出伺」の決裁の後に捜査員への現金交付がなされるのであるが、県警本部の中間報告においても、「捜査費支出伺」は、元庶務係長が作成した下書きを基に作成されたとの証言があったことを認めている。この点について、元庶務係長は、「捜査費支出伺」の記載内容は、虚偽であると証言している。
 また、特捜班長又は捜査員への現金の交付は、銃器対策課元次席が行っていた。捜査員は、その際、受領したことを証する文書等に押印したことはないと証言しており、「捜査費支出伺」の領収印は本人が押印したものではないと認定される。以上のことから、「捜査費支出伺」の記載内容が虚偽である可能性は高い。
 銃器対策課元次席の証言では、「当該帳簿」に記載していたと証言しているが、その帳簿は廃棄している旨の証言があり、捜査報償費が捜査員に渡されたことを証する書類は現存しない。捜査員の証言は、「受領した。」と証言する者が多い。また、「受領したが金額は覚えていない。」とする者があった。
 「現金出納簿」には、支出された金額が記帳されるが、「基本経費」引き去り前の金額について全額を執行したこととなっている。当時の課長は補食代・激励費としても交付したと述べており、また、県警本部の中間報告でも補食代、激励費として支出したことを認めている。このことから、「現金出納簿」記載のすべての執行額が真実であるとは断定できない。
 元庶務係長から提出された生活安全総務課職員の銃器対策課長あての『領収書』について、当時の生活安全総務課職員から事情聴取することはできなかったが、当時の銃器対策課次席の一人は「部管理費」等として渡すことも考えられるといった証言を行っている。イで述べたような、「基本経費」引き去りの事実を考えると捜査報償費の一部が本来の捜査報償費として支出されなかった可能性がある。
 さらに、元庶務係長の証言にあるように幹部職員が、捜査報償費を私的に流用したとする証言については、当時の銃器対策課の課長及び次席は私的流用を否定している。そのほか、私的流用を裏付ける証拠は見出せなかった。

 第5段階では、捜査員から協力者への現金の交付又は情報取得のための飲食店等の利用経費の支出がなされることとなる。   
 真正な協力者については、捜査上の機密であり開示できないとの理由で明らかにされなかった。
 このような状況の下では、捜査員の証言以外に証拠となり得るものはない。
 しかしながら、捜査員の証言は、捜査報償費を渡した状況などについて明確に説明するものではなかった。
 さらに、メモ(備忘録)に記載したとの証言があるものの、1名を除いてメモ(備忘録)は廃棄したとの証言であった。なお、メモ(備忘録)の内容については、閲覧できなかった。
 また、協力者への支払いに関し、「銃器押収事件報告書」等2件の文書の提示がなされたが、協力者への捜査報償費の支払いを確認できるものではなかった。
 県警本部の中間報告では、国費を含め219件については、現時点で執行があったと判断しているが、どのような根拠があるのか、監査では確認できなかった。
 以上のことから、捜査員から協力者へ現金の交付がなされたとの確証を得るには至らなかった。

 第6段階では、執行された捜査報償費の精算が「支払精算書」によって行われるのであるが、監査対象機関は「支払精算書」記載の協力者については偽名であり、元庶務係長の下書きに基づいて捜査員が記載したことも認めている。一方、捜査員の証言では、下書きの金額は確認したとしている。しかし、下書きを作成した元庶務係長は、下書きに記載された金額について、「現金出納簿」の金額に合わせた内容のものと証言している。金額については、エで述べたように、「現金出納簿」及び「捜査費支出伺」の記載金額が真実とは言えないような状況であり、「支払精算書」の記載内容は虚偽のものと認定せざるを得ない。
 また、情報取得のための飲食店等の利用経費の支出については、「領収書」が添付されていたが「領収書」にはあて名もなく、真正に発行されたものであるとしても、当該捜査員がその捜査に関して支出したものであると確認することはできない。

 監査対象期間は、平成7年度から平成11年度であるが、監査対象機関が保存している公文書は平成10年度及び平成11年度であり、元庶務係長から提出された文書との照合を行うとともに、提出を受けた平成7年度からの文書との整合性について検証を行った。しかし、平成7年度から平成9年度については、監査対象機関において公文書が保存されていないため照合できなかった。

 以上のことから、会計課元次席において、毎月35,000円の「基本経費」が引き去られていたこと、「現金出納簿」に虚偽の記述があること、「支払精算書」は、協力者名等の記述が虚偽であることが認められる。
 上記のような手続によって取得された金員が、実際に捜査報償費の目的に即して使用されたことについては確証が得られなかった。
 また、『県費捜査費事項別内訳表』が会計課内で作成されていたこと、「基本経費」として一定の金額が定期的に差し引かれていたことから、このような不適正な事務の執行が、会計課と銃器対策課の間で何らかの合意の下になされていたことが認められる。さらに、このことを前提とした銃器対策課での虚偽の「現金出納簿」の作成、虚偽の「支払精算書」の作成等の事務処理がなされており、長期に渡り反復的になされていたことから、組織的に行われていたと判断せざるを得ない。
 なお、『領収証』に「10月分部管理費」との記載があることは、生活安全部も関与した銃器対策課の不適正な捜査報償費の事務処理を疑わせるものである。

(2) 旅費
 旅費は、精算払に係るものと、概算払に係るものがあり、概算払には口座振込によるものと、緊急用前渡資金による現金払のものがある。
 平成9年4月から概算旅費について緊急用前渡資金からの現金による支払制度が創設されている。さらに、平成9年9月から精算旅費及び緊急用前渡資金によらない概算旅費の支給方法が現金払から口座振込の方法に変更されている。

 平成9年8月以前の旅費の支払いについては、当時の旅費担当者から事情を聴いた。銃器対策課の旅費受領代理人である庶務係長の口座に出納事務局から振り込まれた後、旅費担当者が各人の分を分けて封筒に入れ、庶務係長を経由して、次席に渡していた。次席の証言では、各特捜班長にまとめて渡し、特捜班長から各人へ現金を渡していたとのことであった。
 元庶務係長の『捜査費等(現金)受領簿』から、毎月旅費を次席に渡したことが推定される。
 平成9年9月以降は、口座振込となった。
 平成9年度以前の出張命令書等が既に廃棄されており、事実確認をする手段がなかった。
 しかし、なぜ『捜査費等(現金)受領簿』の県費旅費欄に記載があるのか疑念が残る。

 平成10年度以降の精算払に係る旅費については、出張命令を捜査員が作成し、旅費担当職員が、命令を基に支給額を計算し、旅費請求システムに入力し各捜査員の口座に入金されている。各月出張命令に応じた1万円から2万円程度の支給がなされており、捜査員の金額に関する証言とも一致している。さらに、捜査員の証言による出張日数からも適正に支出されているものと考えられる。

 平成10年度以降の概算払に係る旅費のうち口座振込に係る旅費については、あらかじめ予定されている出張に対する旅費であるが、その支払い手続は精算払に係る旅費と同様に、各人の口座に入金されており、適正に支出されているものと考えられる。

 平成10年度以降の概算払に係る旅費のうち緊急用前渡資金からの旅費の支出については、捜査上緊急な出張が必要な場合、出張日の2日前に命令を受け、前日に旅費支給を受けている。
 旅費の支払いについては、庶務係長が、出張者に代わって会計課から現金を受領し、次席に渡し、さらに次席から出張者に交付される。庶務係長が会計課から現金を受領する際、会計課の「前渡資金差引簿」に出張者の受領印を押印している。
 出張者への文書照会及び事情聴取では1件を除き「次席から旅費をもらった。」、「実際に出張した。」との証言があった。
 元庶務係長が作成した『捜査費等(現金)受領簿』の県費旅費欄には、次席の受領印があり、庶務係長から次席に渡されていた金額が記載されたものと推定される。
 出張の事実を確認するため、宿泊先を出張者に確認したが「宿泊先を記憶していない。」等の証言であり、確認できなかった。また、訪問先への事実確認を行ったが、出張用務に関連する書類が保存期限を経過している等の理由で確認できる回答は得られなかった。
 なぜ『捜査費等(現金)受領簿』の県費旅費欄に記載があるのか、なぜ次席からではなく庶務係長から交付できなかったのか、「受領していない。」との1件の証言は、単なる記憶違いなのか等解明できなかった点は残るが、捜査員に交付されなかった、また、出張の事実がなかったと断定するには至らなかった。

 以上のように、一部に解明できなかった点は残るが、旅費の支出については、不適正な支出がなされたとの確証を得るに至らなかった。

(3) 結論
 本件監査は、県費を対象とするものであり、請求人主張の国費を含む約6,600万円のうち、県費に係る捜査報償費について、次のとおりの結論となった。
 捜査報償費については、その適正な支出を証明するべき「現金出納簿」及び「支払精算書」が虚偽であると認定されるために、形式的にはそのすべてが使途不明であり、不適正に費消されたと判断せざるを得ない。しかし、実質的な違法性については、実際の支出内容で判断するべきであるが、当時の銃器対策課の課長、次席及び捜査員の証言から、すべての捜査報償費がその本来目的としている使途と異なる支出がなされていたとは断言できない。
 なお、会計課次席で「基本経費」として引き去られた金員は、捜査報償費の本来目的のため使用されたと検証がなされない限り、不適正な支出と判断せざるを得ない。県警本部の中間報告においても、一部不適正な執行があったことを認めているが、適正に支出したとする根拠も明確ではない。県警本部は、捜査報償費の支出が既に形式的には使途不明と判断される状況を踏まえたときに、支出が適正になされたことの立証責任を負っていることを認識すべきである。
 捜査報償費が、適正に支出されたとする根拠や証拠となる関係書類、事績等を捜査活動の秘匿性を理由に、外部の何人に対しても開示できないとする以上、不適正な支出がなされた金額の決定及びその責任の所在の判断は、県警本部長において自ら調査し、これを明らかにする以外に方途がない。また、調査に当たっては、県民の信頼が得られるよう、調査に携わる県警幹部の姿勢を明らかにし、職員等が十分理解し、良心に従った真実の証言が得られるようにすべきである。なお、調査の公正性を確保するため、県公安委員会の監督の下に調査が行われ、その結果が、調査過程を含め、県民の前に明らかにされることが必要である。
 以上のことから、県警本部長は、関係者それぞれの責任を明確にし、平成10年度及び平成11年度に銃器対策課へ支払われた捜査報償費全額4,078,683円のうちの捜査報償費の本来目的以外に支出された金額に加えて、平成8年度及び平成9年度において会計課次席に渡された「基本経費」のうち捜査報償費の本来目的のため使用されたことが立証できない金額の合計金額(利息を含む。)及び返還すべき関係者を確定し、平成16年7月31日までに、県に返還するよう勧告する。

 4 意見
 このたびの捜査報償費の不適正支出は、捜査上の秘匿性を奇貨として、偽りの事務処理で事実と異なった一連の会計処理によって行われたものである。
 このことは、捜査報償費が県民の貴重な税金で賄われている公金であることの基本的認識と会計制度に対する認識が、職員においても欠如し、さらには、組織としても欠如していたことが大きな要因であり、県民の信頼を著しく失墜させたことは、誠に遺憾である。
 したがって、今回のことを契機として、組織を挙げて啓発や研修を行い、公金に対する職員の意識改革と会計制度の周知徹底を図ることが必要である。
 また、捜査報償費の執行については、捜査活動の特殊性等から、その秘匿性はあるとしても、公金支出の透明性を確保するとともに、説明責任が十分に果たされるべきものである。
 捜査報償費の事務処理は、適正かつ厳格に行われるべきであり、県民の理解を得られるような公金支出の制度や事務処理方法の改善も必要である。
 今後、県警においては、自浄作用、自律機能を発揮し、厳正な調査を実施することにより、一日も早く疑惑の実態を解明し、その全容を明らかにして、県民の信頼を回復し、県民の安全で安心して暮らせる生活を守る警察行政が一丸となって進められるよう期待する。


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