平成14年(ネ)第511号 損害賠償等請求控訴事件判決(骨子)

第1 事案の概要
  本件は、一審原告らが、被控訴人国及び一審被告会社によって、戦前、中国から日本に強制連行され、一審被告会社の事業場で強制労働させられた等と主張して、被控訴人国及び一審被告会社に対し、慰謝料の支払い等を求める事案である。

第2 当裁判所の判断
1、 戦前の不法行為責任の成否
(1) 一審原告らの来日は強制連行であり、一審原告らの労働は強制労働である。これらにつき、被控訴人国及び一審被告会社は、共同不法行為責任を負う。
(2) 被控訴人国の主張する国家無答責の法理は適用されない。
(3) 上記共同不法行為に基づく損害賠償権は、最も早い提訴日の2,000年5月10日前に(不法行為の時から約55年経過)、排斥期間20年の経過により消滅した。

2、一審被告会社の戦前の保護義務違反の成否
 一審被告会社は、一審原告らに対し、同保護義務の不履行によって生じた損害を賠償すべき義務を負うが、同損害賠償請求権は、2,000年5月10日前に、消滅時効期間10年の経過により消滅した。

3、被控訴人国の戦前の保護義務を認めることはできない。

4、一審被告会社の戦後の保護義務を認めることはできない。

5、被控訴人国の戦後の保護義務を認めることはできない。

6、戦後の不法行為責任に関する一審原告らの主張は、いずれも採用できない。

7、結論
 一審原告らの、被控訴人国及び一審被告会社に対する各請求は、いずれも理由がなく、棄却を免れない。



弁護団声明

 本日、福岡高等裁判所は中国人強制連行・強制労働事件について判決を言い渡した。
 本日の判決は、中国人強制連行・強制労働事件について、わが国では初めての高裁判決であり、また一審の判決が 加害企業の責任を初めて認めたものであったことから、国の内外から高い関心と注目を集めていた。

 判決は、国に対する損害賠償を否定するとともに、一審判決が認めていた三井鉱山に対する損害賠償も否定した。一審判決を大きく後退させるもので不当な判決といわざるを得ない。我々は控訴審においても中国人強制連行・強制労働の実態を明らかにするとともに、新たに入手した外務省の公開文書、被害者が保管していた持ち帰り金の保管証などの資料を証拠として提出し、戦後国と企業が中国人らに支払うべき賃金も支払わず、中国人強制連行・強制労働の事実を隠蔽するためにさまざまの悪質な工作を行ってきたことを明らかにした。外務省の公開文書によって、戦後、内閣・外務省・厚生省などの行政機関が通牒し本問題が国会で議論されないように画策するとともに、関係機関で打合せのうえ国会でも事実を否認する虚偽の答弁を繰り返すなど、卑劣な対応をとってきたことが明らかとなった。また戦後、国が一貫してその所持を否認していた。いわゆる外務省報告書も、本当は1部残されていたことが判明し、国が国会のみならず、訴訟の場においては裁判所をも欺いてきたことが暴露された。

 このような事実によれば、控訴審においては、三井鉱山の責任はもちろんのこと、戦後においても悪質な行為を繰り返してきた国の責任も認められてしかるべきであった。しかるに、判決は国の責任のみならず三井鉱山の責任をも否定した。

 国の責任について、判決は、強制連行・強制労働について、国と三井鉱山の共同不法行為責任を認め、かつ、国家無答責の法理の適用についてもこれを排斥した。しかし、判決は、国の損害賠償責任について、排斥機関の適用を制限するためには、被害者が権利行使が可能となって速やかに権利行使したことが必要であると判断し、中国における出入国管理法が施行された1986年2月1日から本件提訴までに約14年が経過しており、原告らが速やかに権利行使したとはいえないとして、排斥機関の適用を認め、国に対する損害賠償権は除斥期間の経過により消滅したと判示した。 三井鉱山の 責任についても、判決は、国との共同不法行為責任と安全配慮義務違反を認めたものの、消滅時効の適用と排斥期間の適用を認め、三井鉱山の対する損害賠償権は消滅したと判示した。

 判決は、原告らに対する強制連行・強制労働の事実は認めたものの、国と三井鉱山に対する損害賠償権については、排斥期間と消滅時効によって消滅したと判示下。裁判所が原告らの受けた深刻な被害を正面から受けとめず、国・企業の悪質な加害行為や戦後における卑劣な隠蔽工作などの事実を直視しなかったことが、本日の不当な判決をもたらしたものといわざるを得ない。

 中国人の強制連行・強制労働訴訟が提起することができるようになったのは、外務省報告書の存在が公けとなって、具体的な事実が明らかとなった1990年代後半からであって、1986年から速やかに権利行使すべきであったと判示した本日の判決は、原告らが置かれていた当時の実態と本訴を提起するに至った経過を全く無視するもので、極めて不当なものである。
 ただ、本日の判決においても、原告ら中国人に対する強制連行・強制労働の事実は認定されており、また、国と三井鉱山の責任も認定されている。にもかかわらず、国と三井鉱山が、この恥ずべき犯罪行為に対して何らの解決策も講じていないことも明白である。我々は、国と三井鉱山に対し、中国人強制連行・強制労働の事実を認めて、被害者に対して謝罪をするとともに、その解決のための措置を講ずるよう要求する。

 我々は、今後も日中の友好と平和を願う多くの人々と力を合わせて、中国人強制連行・強制労働事件の解決のために努力することを宣言する。

 2004年5月24日
 中国人強制連行・強制労働福岡訴訟事件 弁護団長



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